Vuelta Abajo

ハバナ・シガーに魅入ってしまうとブエルタ・アバホ(Vuelta Abajo)と言う土地の名前は自ずと耳に入ってくる。
そこはこの世で最も素晴らしいタバコ葉が育つ唯一無二の地だ。

ブエルタ・アバホは32,000ヘクタールの広さで7つの区画が50ほどの畑・プランテーションに分けられている。
これは島の面積のわずか3%弱である。
どれだけ限られた土地であるかは、琵琶湖のおおよそ半分であると聞けば簡単に想像がつくかもしれない。
この面積全てが耕されているわけではないであろうし。
キューバのタバコ産業の4割がプレミアム・シガーで残りの6割がやや質が劣るシガー、シガリロ、シガレットになるそうだ(2002年の情報)。

クリストファー・コロンブス達が足を踏み入れる以前からタバコ葉の栽培はなされていたので、ブエルタ・アバホも歴史の古い土地なのだと思っていた、、が、ところがどっこい、比較的最近発見されたらしい。
Gerard Pere & Fils著The Art Of Cigars – The World’s Finest Cigarsによると、1772年のことだという。
反乱を武力で鎮圧されてしまい、西へと移住したタバコ栽培農家らがピナ・デル・リオ(Pina del RIo)に腰を落ち着けたということだ。
栽培農家がこの土壌に出会った一方で、スペインの覇権が及ばない海賊がこの土地に気づき、何十年もの間、虎視眈々と狙いをつけていたという。

ブエルタ・アバホは世界でもユニークな環境が揃っていることで有名である。
どれだけ注意を払い、土壌の調合や陽の光、湿度、潮風に努力を傾けてもブエルタ・アバホ以外の場所では再現できないのだ。
タバコ栽培農家はジャマイカ、ハイチ、そしてドミニカでも挑戦したものの、成功には至っていない。その上、ブエルタ・アバホのタバコ農家・トルセドール・タバコ産業に関わる人々の特殊なノウハウや技術を持ってしても畑ごとに個性が現れるのだという。

その中で最上と言わしめるのがサン・ファン・イ・マルティネスとサン・ルイである。
どことも似通わないサラッとしたミネラルの豊富な土壌、農薬を禁止した耕作と農学に基づいた灌漑法からこの地の大半の畑からバラエティに富んだタバコが生産されているのだ。つまり、特定のブランド、ヴィトラを作るために必要なブレンドのバックボーンとなっている。
タバコの主な種として、クリオロ葉がフィラーに用いられ、コロホ葉は最上のラッパーだ。
そしてハバナ92とハバナ2000はそれぞれクリオロとコロホのハイブリッドである。これらの種は1980年に猛威を振るった「タバコべと病」を機に作られた。

※RICHARD CARLETON HACKER(2015), The Ultimate Cigar Book第4版, 59では、1980年の猛威が26,000人もの労働者の職を奪い、結果的には総輸出額のうち1億ドルの損失だったと述べられている。($としか表記がないのでUS$なのかどうかは不明)
ちなみに1884年にはドミニカを襲い、翌年1985年には中央アメリカを襲っている。

この地域では最上のフィラーはもちろんのこと、ハバナ・シガー作りに使われる美しく、無傷でシルキーなラッパーを生み出している。
ブエルタ・アバホは神に愛された土地であることに疑いの余地はない。

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化粧箱に貼られたステッカーに堂々と書かれる “SUPERIORES DE LA VUELTA ABAJO”